相続の概念がない国はある?|世界の相続制度と日本との違いを解説

雑学

「世界には相続という考え方そのものがない国があるらしい」――そんな話を耳にして、本当なのか気になっていませんか。実は、日本のような法定相続分や遺留分といった仕組みが当てはまらない社会は、現代にも歴史上にも存在します。この記事では、相続の概念が薄い国や地域の実例、イスラム法や慣習法による承継のルール、そして海外に資産や家族がいる場合に日本人が注意すべきポイントまで、初心者にもわかりやすく整理します。読み終える頃には、世界の相続事情と自分に必要な備えが見えてくるはずです。

「相続の概念がない国」は本当に存在するのか?

結論からお伝えすると、現代の国家で「相続に関する法律がまったく存在しない国」はほぼありません。人が亡くなったときに財産を誰が引き継ぐのかというルールがなければ、土地や預金をめぐる争いが多発し、社会そのものが混乱してしまうからです。そのため、どの国も最低限の財産承継ルールを備えています。

ただし、「相続という言葉はあるが、その中身が日本とはまったく違う」という国は数多くあります。日本の相続制度は、個人が財産を所有していることを前提に、配偶者や子といった法定相続人へ承継され、遺言によってある程度自由に配分を変えられる仕組みです。ところが世界には、財産の所有主体が個人ではなく氏族や共同体である社会、宗教の教えによって配分比率が固定されている社会が存在します。こうした地域では、日本人がイメージする「親の財産を子が受け継ぐ」という発想自体が成り立ちません。

つまり正確に言えば、「相続がない国がある」のではなく、「日本型の相続概念が通用しない国がある」ということです。国際結婚や海外移住、海外不動産投資が身近になった今、この違いを知っておくことは大きなリスク回避につながります。

イスラム法の国では相続はどう決まる?

サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートなど、シャリーア(イスラム法)を法体系の基礎とする国では、相続の考え方が日本と大きく異なります。特徴的なのは、財産の分配比率が宗教上の規範によってあらかじめ定められている点です。

遺言の自由が限られている

これらの国では、遺言によって自由に処分できるのは原則として遺産の3分の1までとされています。残りの3分の2は、決められた相続人へ決められた割合で配分されます。「全財産を長男に」「お世話になった友人に多く残したい」といった日本的な発想は、原則として認められません。個人の意思よりも、宗教が定めた秩序が優先されるのです。

男女で相続分が異なる

もう一つの大きな特徴が、性別による配分の違いです。同順位の兄弟姉妹であれば、男性が女性の2倍を受け取るという考え方が基本になります。これは、男性側に家族を扶養する義務があるという社会構造とセットになった仕組みです。

さらに、国によっては非イスラム教徒の相続について特別なルールが設けられている場合や、外国人が自国法の適用を選択できる制度が整備されつつある国もあります。UAEのように、外国人向けに遺言登録制度を用意している例もあり、現地に不動産を持つ日本人は事前の手続きが欠かせません。

氏族や慣習法が優先される社会の相続とは

太平洋の島嶼国やアフリカの一部地域では、成文法と並んで慣習法が強い効力を持っています。ここでは、土地をはじめとする主要な財産が個人ではなく氏族(クラン)や一族全体に帰属していることが少なくありません。

たとえばナウルやサモア、フィジーなどでは、土地は共同体の共有資産という位置づけが強く、個人が自由に売買したり遺言で誰かに与えたりすることが難しい仕組みになっています。誰が土地を利用するかは、長老や首長を中心とした話し合いで決められます。パプアニューギニアでも、国土の大部分が慣習的土地保有のもとにあり、承継は血縁集団の内部ルールに従います。

ケニアやタンザニアなど東アフリカの一部の民族社会でも、財産は「家族のもの」ではなく「氏族のもの」と捉えられ、男系のみが承継する父系制、あるいは母方の血筋をたどる母系制が採られてきました。母系社会では、息子ではなく姉妹の子(甥)が財産を引き継ぐ例もあります。子どもよりも兄弟が優先されるケースもあり、日本の相続順位とはまったく異なる論理で動いています。

近年はこれらの国でも成文法の整備が進み、女性の権利保護を強化する法改正が行われています。とはいえ実務上は慣習が根強く残っており、法律と現実にギャップがある点は理解しておきたいところです。

歴史的に相続が存在しなかった社会もある

「相続の概念がまったく存在しない」という状態に最も近いのが、狩猟採集を基盤とする社会です。アフリカ南部のサン人や、インド洋のアンダマン諸島の人々などがその代表例として知られています。

こうした社会では、そもそも蓄積できる財産がほとんどありません。移動生活が中心のため、所有物は狩猟具や身の回り品などごく限られたものだけです。土地は誰のものでもなく、集団全体で利用します。財産を独占せず分かち合うことが規範として重視され、亡くなった人の持ち物は共同体の中で自然に分配されるか、死者とともに埋葬・処分されることもありました。

個人が財産を所有していないのですから、それを次世代へ引き継ぐという発想も生まれません。相続制度とは、私有財産と定住・蓄積を前提とした社会が生み出した仕組みだと考えると理解しやすいでしょう。逆にいえば、日本の相続制度が当たり前に見えるのは、私たちが財産の個人所有を前提とする社会に生きているからにほかなりません。

海外に資産や家族がある人が知っておきたい注意点

世界の相続事情を知るうえで、日本人にとって実務的に重要なのが「国際相続」の問題です。日本の法律では、相続は原則として亡くなった方の本国法によって処理されます。つまり日本人が海外で亡くなっても、日本の民法にもとづいて相続人や相続分が判断されるのが基本です。

一方で、不動産については所在地の法律を適用するという考え方を採る国も多く、たとえば海外に不動産を持っている場合、その国の手続きに従わなければ名義変更ができないことがあります。英米法系の国では、遺産をいったん人格代表者が管理・清算してから相続人へ引き渡す「プロベート」という裁判所手続きが必要になり、解決までに1年以上かかることも珍しくありません。

税金の面でも違いは大きく、シンガポール、香港、マレーシア、オーストラリア、カナダ、スウェーデン、UAEなど相続税を課さない国は複数あります。ただし相続税がない国でも、キャピタルゲイン課税など別の形で課税されることがあり、単純に「税金ゼロ」とは限りません。また日本の居住者であれば、海外資産にも日本の相続税がかかるのが原則です。

海外資産や国際結婚が関わるケースでは、公正証書遺言の作成、現地での遺言登録、財産目録の整備が有効な備えになります。判断に迷う場合は、国際相続に対応した税理士や司法書士へ早めに相談し、必要に応じて生命保険や信託といった選択肢も検討すると安心です。無料相談から始められるサービスも増えているため、まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ

相続の概念がない国があるかという疑問に対しては、「法制度が完全にゼロの国はほぼないが、日本型の相続概念が通用しない社会は確かに存在する」というのが答えです。イスラム法の国では宗教が配分を定め遺言の自由が制限され、太平洋やアフリカの慣習法社会では財産が氏族に帰属します。狩猟採集社会に至っては、私有財産がないため相続そのものが不要でした。

これらを知ると、日本の相続制度は世界共通の常識ではなく、私有財産と家族単位の承継を前提とした一つの形にすぎないことがわかります。海外に資産や家族を持つ方は、準拠法・現地手続き・税金の三点を早めに確認し、遺言や専門家相談で備えておくことが、大切な人を守る最善の方法です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 相続税がない国はどこですか?
シンガポール、香港、マレーシア、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スウェーデン、ノルウェー、UAEなどが代表例です。ただし譲渡益課税など別の税負担が生じる場合があり、日本の居住者は海外資産にも日本の相続税がかかる点に注意が必要です。

Q2. 遺言で自由に相続人を決められない国はありますか?
あります。サウジアラビアやUAEなどイスラム法を基礎とする国では、遺言で処分できるのは原則3分の1までです。またフランスやドイツなど大陸法系の国にも、日本の遺留分に近い制度があり、完全な自由ではありません。

Q3. 日本人が海外で亡くなった場合、どの国の法律が適用されますか?
日本の国際私法では被相続人の本国法が原則となるため、日本人であれば日本の民法が基準になります。ただし不動産所在地国の法律や手続きが優先される場面もあるため、財産の所在国ごとの確認が欠かせません。

Q4. 海外に不動産があると相続手続きは大変ですか?
国によってはプロベートと呼ばれる裁判所手続きが必要で、1年以上かかることもあります。現地語の書類や公証手続きも求められるため、生前に現地で有効な遺言を用意しておくと負担を大幅に減らせます。

Q5. 男女で相続分が違う国は今もありますか?
はい、イスラム法を採用する国々では、同順位でも男性が女性の2倍を受け取る配分が基本です。アフリカやオセアニアの慣習法が強い地域でも、男系承継が続いている例が残っています。

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